下記は、「まぐまぐ」メルマガ第102号(2014.12.31)に掲載したものです。
参考に供したい。
癒しの脳内物質、“オキシトシン”の不思議!』(2の1)
○はじめに
・オキシトシンは、ストレスを緩和し、癒しの効果があることが科学的に証明出来るようになり、脚光を浴びてい
る。今回は、以前もこの課題に振れたが、改めて、もう少し深く探求してみる。
○オキシトシンとは
・オキシトシンは、1906年、イギリスの研究者によって発見されている。そんなオキシトシンは、長い間、出産・
授乳ホルモンとし て知られていた。当たり前のことだが、妊娠・出産できるのは女性のみなので、女性ホルモ
ンだと考えられていた。
・女性ホルモンとしてのオキシトシンの働きは二つあり、その一つは出産時に母体の子宮を収縮させて胎児を
母体から出させること。出産時になるとたくさんのオキシトシンが分泌されるようになるのはそのためだ。
・ちなみに、オキシトシンの語源は、「速い」と「陣痛」と言う意味のギリシャ語である。
・現在でも産科の領域で、陣痛促進剤として広く用いられている。
・そして、もう一つの働きは、乳汁分泌の促進。出産後の母体の乳腺に働きかけ、もっと母乳を作るよう指令を
出す役目を担っている。
・この様に、オキシトシンは、「妊娠・出産し、子育てをする女性のみに対して生理的な働きをするホルモン」と言
うことが、長い間信 じられていました。
・ところが、この10年ほどの間に研究が進み、新たなことが分かって来ました。それまでオキシトシンは分泌量
がきわめて微量ですぐに分解されてしまうため、正確な測定が困難でした。しかし、測定技術の急速な進歩に
よって女性ばかりか、男性も分泌知ることが判明。「オキシトシン=女性ホルモン」の定説が覆(くつがえ)った
のです。
・そればかりではない。オキシトシンはホルモンとして血中に放出されるだけでなく、下垂体を経ずに視床下部
から直接、脳内の神経細胞に運ばれることが分かったのです。その細胞にはオキシトシンの受容体が存在す
ると言うこと。つまりオキシトシンは、「脳の神経 細胞間で情報を伝達する神経伝達物質でもある」ことが解明
されのです。しかも、オキシトシンの受容体は、脳の中でも「心」を司っ ている領域の神経細胞に多く存在して
いることが明らかになりました。
・要するに、オキシトシンは、私たちの「心」に影響を及ぼす脳内物質でもある、と言うことです。
・会社帰りのちょいと一杯で癒される。それは、気のせいでも、言い訳でもなく、オキシトシンがもたらす効果に他
ならない。同僚と一 杯やることでオキシトシンが出る。それが私たちの心に作用した結果が、「癒される」なの
です。
・既述したような癒しの他、母子の絆を形成したり、男女間の愛情を深めたり、不安や恐怖を軽減したり・・・・。オ
キシトシンには、 まだまだ様々な効果があることが分かって、いま世界中で注目を集めていると言う。
○脳内物質オキシトシンの働き
・オキシトシンの働きとして、女性の授乳・出産に係るもの以外、どの様なものがあるかを列挙してみると、以下
の通りである。
1)ストレスを緩和する
・ストレスを受けると、私たちの体内では、まず交感神経が緊張すると言う変化が起こる。次に、副腎髄質からア
ドレナリンが分泌され、血液に乗って体内をめぐる。怒りや恐怖などのストレスがかかった時、目をハッと見
開いたり、心臓の鼓動が早くなったりするのは、このアドレナリンの作用によるものだ。これがストレス反応の
最初の段階だが、ここで問題が解決すれば万事オーケー。身体はま た元通り、平常に戻る。
・問題は上司の嫌がらせが長引いた時である。毎日、毎日、顔を合わせるたびに嫌味を言われ、理不尽な注文
を押し付けられる。そんなストレスフルな状況が長く続くと、どうなるかである・・・・。
・哺乳類や人間には、以下の様な「ストレス経路」があることが分かっている。
ストレスを受ける⇒ストレスが「刺激」として視床下部の室(しつ)傍核(ぼうかく)に伝わる⇒室傍核から、「副腎
皮質を刺激するホル モンを出せ」と指令を出す「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌される⇒「副腎
皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が下垂体を 刺激⇒下垂体から「副腎皮質刺激ホルモン」が出る⇒「副腎皮
質刺激ホルモン」が副腎皮質を刺激⇒副腎皮質から副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が分泌され
る・・・・・。と言う様なストレス経路を辿るのだ。
・ストレス経路の最後に出てくるコルチゾールは、「ストレスホルモン」とも呼ばれ、大量に出続けると、高血圧、
免疫抑制、糖尿病などの様々なストレス性の病を引き起こす。ストレスが健康に良くないことは周知の事実だ
が、その元凶(げんきょう)はコルチゾールにあった。
・長期のストレスにさらされた時、コルチゾールが分泌されるのは、闘う事を止めて「来たるべき時」に備えるた
め。そう考えると非常に分かり易いのではないだろうか。問題は、いつまで経っても「来たるべき時=ストレス解
消」がやってこないと、厄介なことになる・・・・。以上が、ストレスが身体に与える影響である。
(精神的なストレスの場合)
・ストレスによって影響を受けるのは、身体の病気だけではない。ストレスが、うつ病などの精神的な病の原因
になることだ。ここで注意が必要なのは、これも又、コルチゾールのせいなのかと言うことだが、答えは否であ
る。
・実は、ストレスが精神に影響を与える経路は、身体に影響を及ぼす(コルチゾールが出る)経路とは別とにあ
ることが分かっている。
・スタートは視床下部・室傍核だが、身体的ストレス経路が下垂体(かすいたい)に行くのに対し、精神的ストレス
経路の場合は脳(のう) 幹(かん)の縫(ほう)線核(せんかく)と呼ばれる部分に影響を与える。
・脳幹は脳の中でも深い部分にあり、人間の生命維持に関わる働きを担う場所。その脳幹の真ん中に位置する
のが縫線核で、ここにはセロトニン神経がある。
・セロトニンは、うつ病パニック障害など、精神的な病と深く関わる脳内物質だ。その物質を出すセロトニン神経
があるのが、縫線核。 この部分に視床下部・室傍核を経てストレス情報が伝わることで、セロトニン神経の働
きが阻害され、その結果がストレスから生じる 心の病と言うことなのである。
・ストレスの経路については、身体的ストレス経路と精神的経路の二つがあることは理解いただけたと思うが、
オキシトシンは身体的、 精神的、いずれのストレス経路でもスタート地点に当たる視床下部の室傍核に作用
することが分かっている。室傍核は「ストレス中枢」とも呼ばれる場所だが、オキシトシンはこの部分を抑制す
る働きを持っているのである。
・つまりオキシトシンが分泌される条件を作ってやれば、ストレス中枢が抑制されるため、ストレス緩和の効果が
期待できると言うことになるのです。
2)「癒し」をもたらしてくれる
・一般的に言われる「癒し」は、自律神経との絡みで語られることが多い。自律神経は、活動を司る交感神経と
休息を司る副交感神経とで成り立ち、通常は、テキパキと活動する昼間は交感神経が、一日の活動を終え
て休息する夜間は副交感神経が、それぞれ優位に働いている。もちろん日中であろうと副交感神経が優位に
働くことはあるし、夜間でも交感神経が緊張することはある。
・普通に語られる「癒し」とは、昼間であろうが夜間であろうが、副交感神経が優位になっている状況だ。心や身
体が張り詰めた状況から解放されて「リラックスした状態」とでも言おうか。
・オキシトシンに癒し効果があるとされる最大の理由は、ストレス緩和作用があるからだ。ストレスが減れば誰し
もホッとして心穏やかに過ごすことが出来る。この状態も立派な「癒し」と言えるのではないか。
・さらにオキシトシンには不安や恐怖による混乱した心理状態を軽減したり、人との絆を強くしたり、心を「ほんわ
か」させたりする効果もある。ストレス緩和も併せ、この様な働きを全てまとめれば「癒し効果」と呼ぶことが
出来るのだ。
3)「母性脳」を形成する
・母と子の絆が非常に強いことは、広く知られた事実です。当然のことながら、母親はあれやこれやと子供の世
話をする。まだ自分では何もできない、生まれたばかりの赤ん坊となるとなおさらだ。
・普通、女性に限らず人間なら誰でも一番大切なのは自分自身である。自己の欲求や幸せを第一に考えて生き
ている。
・ところが母親になると、その第一の選択肢が我が子に変わる。自分はさておき子供のことが最優先。極端な場
合には自分の寝食を犠牲にしてまでも、子供の面倒に専念するようになる。怖いものなしで、たとえ火の中、
水の中、かわいいわが子のためなら命を投げ出してもいいとさえ思う。
・この様な母親の姿勢は「母性脳」によるものだが、母性脳は女性の年齢が一定の段階に達すると自然に発現
するわけではない。母性脳 は、妊娠、出産、育児があって初めて創り出されるものなのだ。ではなぜこうした
母性脳が創られるのか。実は、この母性脳の形成にもオキシトシンが主要な役割を担っていることが明らか
になっている。
・ここで注目すべきは、哺乳(ほにゅう)と言う行動だ。オキシトシンは哺乳類だけが持つ物質なのである。私たち
人間を含む哺乳類は、母乳を与えることで子供たちを育てるが、赤ん坊が母親の乳首(にゅうしゅ)に触れて母
乳を吸う行動が引き金となって、オキシトシンは分泌されるのだ。
・人間の授乳期間はほぼ1年。その間、毎日、毎日、一日に何度も繰り返し授乳し、そのたびにオキシトシンが
分泌されて母親の脳に影響を与え続ける・・・・。かくして母性脳が形成され、母親は母性行動をとるようにな
ると言うわけだ。
・オキシトシンが母性脳を形成する。良く出来たシステムだと思う。哺乳類の子供は、殻に守られて生まれてくる
わけではない。裸のまま、無防備な状態で生まれ、誰かが世話をしなければ生き延びることは不可能だ。
・そこでまず行われるのが授乳である。授乳によってオキシトシンが分泌され、出たオキシトシンによって乳汁の
分泌が促されると言う、子育てにとってよい環境が生まれるばかりか、母親の脳を「子供を育てるのに適した
脳」に変えてしまうのだ。そう考えると、オキシトシンと言う物質の持つ役割が見えて来るのではないだろうか。
オキシトシンは「種の存続」と言う、大きな課題を担っていると解釈できる。
(~次号に続く)
参考に供したい。
癒しの脳内物質、“オキシトシン”の不思議!』(2の1)
○はじめに
・オキシトシンは、ストレスを緩和し、癒しの効果があることが科学的に証明出来るようになり、脚光を浴びてい
る。今回は、以前もこの課題に振れたが、改めて、もう少し深く探求してみる。
○オキシトシンとは
・オキシトシンは、1906年、イギリスの研究者によって発見されている。そんなオキシトシンは、長い間、出産・
授乳ホルモンとし て知られていた。当たり前のことだが、妊娠・出産できるのは女性のみなので、女性ホルモ
ンだと考えられていた。
・女性ホルモンとしてのオキシトシンの働きは二つあり、その一つは出産時に母体の子宮を収縮させて胎児を
母体から出させること。出産時になるとたくさんのオキシトシンが分泌されるようになるのはそのためだ。
・ちなみに、オキシトシンの語源は、「速い」と「陣痛」と言う意味のギリシャ語である。
・現在でも産科の領域で、陣痛促進剤として広く用いられている。
・そして、もう一つの働きは、乳汁分泌の促進。出産後の母体の乳腺に働きかけ、もっと母乳を作るよう指令を
出す役目を担っている。
・この様に、オキシトシンは、「妊娠・出産し、子育てをする女性のみに対して生理的な働きをするホルモン」と言
うことが、長い間信 じられていました。
・ところが、この10年ほどの間に研究が進み、新たなことが分かって来ました。それまでオキシトシンは分泌量
がきわめて微量ですぐに分解されてしまうため、正確な測定が困難でした。しかし、測定技術の急速な進歩に
よって女性ばかりか、男性も分泌知ることが判明。「オキシトシン=女性ホルモン」の定説が覆(くつがえ)った
のです。
・そればかりではない。オキシトシンはホルモンとして血中に放出されるだけでなく、下垂体を経ずに視床下部
から直接、脳内の神経細胞に運ばれることが分かったのです。その細胞にはオキシトシンの受容体が存在す
ると言うこと。つまりオキシトシンは、「脳の神経 細胞間で情報を伝達する神経伝達物質でもある」ことが解明
されのです。しかも、オキシトシンの受容体は、脳の中でも「心」を司っ ている領域の神経細胞に多く存在して
いることが明らかになりました。
・要するに、オキシトシンは、私たちの「心」に影響を及ぼす脳内物質でもある、と言うことです。
・会社帰りのちょいと一杯で癒される。それは、気のせいでも、言い訳でもなく、オキシトシンがもたらす効果に他
ならない。同僚と一 杯やることでオキシトシンが出る。それが私たちの心に作用した結果が、「癒される」なの
です。
・既述したような癒しの他、母子の絆を形成したり、男女間の愛情を深めたり、不安や恐怖を軽減したり・・・・。オ
キシトシンには、 まだまだ様々な効果があることが分かって、いま世界中で注目を集めていると言う。
○脳内物質オキシトシンの働き
・オキシトシンの働きとして、女性の授乳・出産に係るもの以外、どの様なものがあるかを列挙してみると、以下
の通りである。
1)ストレスを緩和する
・ストレスを受けると、私たちの体内では、まず交感神経が緊張すると言う変化が起こる。次に、副腎髄質からア
ドレナリンが分泌され、血液に乗って体内をめぐる。怒りや恐怖などのストレスがかかった時、目をハッと見
開いたり、心臓の鼓動が早くなったりするのは、このアドレナリンの作用によるものだ。これがストレス反応の
最初の段階だが、ここで問題が解決すれば万事オーケー。身体はま た元通り、平常に戻る。
・問題は上司の嫌がらせが長引いた時である。毎日、毎日、顔を合わせるたびに嫌味を言われ、理不尽な注文
を押し付けられる。そんなストレスフルな状況が長く続くと、どうなるかである・・・・。
・哺乳類や人間には、以下の様な「ストレス経路」があることが分かっている。
ストレスを受ける⇒ストレスが「刺激」として視床下部の室(しつ)傍核(ぼうかく)に伝わる⇒室傍核から、「副腎
皮質を刺激するホル モンを出せ」と指令を出す「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌される⇒「副腎
皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が下垂体を 刺激⇒下垂体から「副腎皮質刺激ホルモン」が出る⇒「副腎皮
質刺激ホルモン」が副腎皮質を刺激⇒副腎皮質から副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が分泌され
る・・・・・。と言う様なストレス経路を辿るのだ。
・ストレス経路の最後に出てくるコルチゾールは、「ストレスホルモン」とも呼ばれ、大量に出続けると、高血圧、
免疫抑制、糖尿病などの様々なストレス性の病を引き起こす。ストレスが健康に良くないことは周知の事実だ
が、その元凶(げんきょう)はコルチゾールにあった。
・長期のストレスにさらされた時、コルチゾールが分泌されるのは、闘う事を止めて「来たるべき時」に備えるた
め。そう考えると非常に分かり易いのではないだろうか。問題は、いつまで経っても「来たるべき時=ストレス解
消」がやってこないと、厄介なことになる・・・・。以上が、ストレスが身体に与える影響である。
(精神的なストレスの場合)
・ストレスによって影響を受けるのは、身体の病気だけではない。ストレスが、うつ病などの精神的な病の原因
になることだ。ここで注意が必要なのは、これも又、コルチゾールのせいなのかと言うことだが、答えは否であ
る。
・実は、ストレスが精神に影響を与える経路は、身体に影響を及ぼす(コルチゾールが出る)経路とは別とにあ
ることが分かっている。
・スタートは視床下部・室傍核だが、身体的ストレス経路が下垂体(かすいたい)に行くのに対し、精神的ストレス
経路の場合は脳(のう) 幹(かん)の縫(ほう)線核(せんかく)と呼ばれる部分に影響を与える。
・脳幹は脳の中でも深い部分にあり、人間の生命維持に関わる働きを担う場所。その脳幹の真ん中に位置する
のが縫線核で、ここにはセロトニン神経がある。
・セロトニンは、うつ病パニック障害など、精神的な病と深く関わる脳内物質だ。その物質を出すセロトニン神経
があるのが、縫線核。 この部分に視床下部・室傍核を経てストレス情報が伝わることで、セロトニン神経の働
きが阻害され、その結果がストレスから生じる 心の病と言うことなのである。
・ストレスの経路については、身体的ストレス経路と精神的経路の二つがあることは理解いただけたと思うが、
オキシトシンは身体的、 精神的、いずれのストレス経路でもスタート地点に当たる視床下部の室傍核に作用
することが分かっている。室傍核は「ストレス中枢」とも呼ばれる場所だが、オキシトシンはこの部分を抑制す
る働きを持っているのである。
・つまりオキシトシンが分泌される条件を作ってやれば、ストレス中枢が抑制されるため、ストレス緩和の効果が
期待できると言うことになるのです。
2)「癒し」をもたらしてくれる
・一般的に言われる「癒し」は、自律神経との絡みで語られることが多い。自律神経は、活動を司る交感神経と
休息を司る副交感神経とで成り立ち、通常は、テキパキと活動する昼間は交感神経が、一日の活動を終え
て休息する夜間は副交感神経が、それぞれ優位に働いている。もちろん日中であろうと副交感神経が優位に
働くことはあるし、夜間でも交感神経が緊張することはある。
・普通に語られる「癒し」とは、昼間であろうが夜間であろうが、副交感神経が優位になっている状況だ。心や身
体が張り詰めた状況から解放されて「リラックスした状態」とでも言おうか。
・オキシトシンに癒し効果があるとされる最大の理由は、ストレス緩和作用があるからだ。ストレスが減れば誰し
もホッとして心穏やかに過ごすことが出来る。この状態も立派な「癒し」と言えるのではないか。
・さらにオキシトシンには不安や恐怖による混乱した心理状態を軽減したり、人との絆を強くしたり、心を「ほんわ
か」させたりする効果もある。ストレス緩和も併せ、この様な働きを全てまとめれば「癒し効果」と呼ぶことが
出来るのだ。
3)「母性脳」を形成する
・母と子の絆が非常に強いことは、広く知られた事実です。当然のことながら、母親はあれやこれやと子供の世
話をする。まだ自分では何もできない、生まれたばかりの赤ん坊となるとなおさらだ。
・普通、女性に限らず人間なら誰でも一番大切なのは自分自身である。自己の欲求や幸せを第一に考えて生き
ている。
・ところが母親になると、その第一の選択肢が我が子に変わる。自分はさておき子供のことが最優先。極端な場
合には自分の寝食を犠牲にしてまでも、子供の面倒に専念するようになる。怖いものなしで、たとえ火の中、
水の中、かわいいわが子のためなら命を投げ出してもいいとさえ思う。
・この様な母親の姿勢は「母性脳」によるものだが、母性脳は女性の年齢が一定の段階に達すると自然に発現
するわけではない。母性脳 は、妊娠、出産、育児があって初めて創り出されるものなのだ。ではなぜこうした
母性脳が創られるのか。実は、この母性脳の形成にもオキシトシンが主要な役割を担っていることが明らか
になっている。
・ここで注目すべきは、哺乳(ほにゅう)と言う行動だ。オキシトシンは哺乳類だけが持つ物質なのである。私たち
人間を含む哺乳類は、母乳を与えることで子供たちを育てるが、赤ん坊が母親の乳首(にゅうしゅ)に触れて母
乳を吸う行動が引き金となって、オキシトシンは分泌されるのだ。
・人間の授乳期間はほぼ1年。その間、毎日、毎日、一日に何度も繰り返し授乳し、そのたびにオキシトシンが
分泌されて母親の脳に影響を与え続ける・・・・。かくして母性脳が形成され、母親は母性行動をとるようにな
ると言うわけだ。
・オキシトシンが母性脳を形成する。良く出来たシステムだと思う。哺乳類の子供は、殻に守られて生まれてくる
わけではない。裸のまま、無防備な状態で生まれ、誰かが世話をしなければ生き延びることは不可能だ。
・そこでまず行われるのが授乳である。授乳によってオキシトシンが分泌され、出たオキシトシンによって乳汁の
分泌が促されると言う、子育てにとってよい環境が生まれるばかりか、母親の脳を「子供を育てるのに適した
脳」に変えてしまうのだ。そう考えると、オキシトシンと言う物質の持つ役割が見えて来るのではないだろうか。
オキシトシンは「種の存続」と言う、大きな課題を担っていると解釈できる。
(~次号に続く)